アメリカは治療成績の開示が進んでいると以前に書きましたが↓
一方日本はというと、日本産科婦人科学会が発表するARTデータブックによる全体統計情報にとどまるというのが現状です。
したがって、個別の治療成績の開示は、あくまで各クリニックの自主性に委ねられています。
治療成績が公表されていることは、当事者としてもより納得感や安心感を得てクリニック選びができる判断材料の一つでしょう。
さてそんな治療成績ですが、どれくらいのクリニックが公表しているのか気になったので、今回都内における(総合病院や大学病院などを除いた)いわゆる「専門クリニック」の全ウェブサイトを調査し、公表しているクリニックをリストしてみました。
本記事は、2019年4月下旬から5月上旬に調査を実施し、
- 公表しているクリニックは?
- 妊娠=胎嚢確認としているのは?
- 年齢ごとに妊娠率を並記し比較
- データ公表に積極的なCLは?
という観点から構成しています。
もしかすると漏れや誤りがあるかもしれませんが、その際はそっとDMかコメント欄よりご指摘いただけると有難いです。
では行きましょう。
クリニックのウェブサイトは更新される性質につき、本調査時点の表示・表現、結果と必ずしも一致しない可能性がありますこと予めご理解ください。
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公開しているクリニックはわずか41%!
2019年5月現在、日本産科婦人科学会登録の高度生殖医療を実施する都内の医療機関は102となっており、専門クリニックで絞り開院したての2院を除くと、実質稼働しているのは72院となっています。
この72院全てのウェブサイトを調べるにあたって基準としたのは、
- 治療成績の特設ページを設けている
- 又はその他ページで実績についてある程度スペースを割いている
と特設ページの有無、あるいは無くとも他のページである程度実績についてスペースを割いているクリニックを抽出しました。
この基準で調べたところ、治療実績を公表しているのは72院中、
30院(41%)
でした。意外に少ないな。。。
以下が公表している30クリニックです(五十音順)↓
- あいウィメンズクリニック
- 赤坂レディースクリニック
- 浅田レディースクリニック
- 池袋えざきレディースクリニック
- 井上レディースクリニック
- ウィメンズ・クリニック大泉学園
- うすだレディースクリニック
- 梅ヶ丘産婦人科
- 貝原レディースクリニック
- 木場公園クリニック
- 京野アートクリニック高輪
- 銀座レディースクリニック
- 楠原ウィメンズクリニック
- クリニックドゥランジュ
- 八王子ARTクリニック
- 五の橋レディスクリニック
- 桜の芽クリニック
- 三軒茶屋ウィメンズクリニック
- 立川ARTレディースクリニック
- 田園都市レディースクリニック
- 東京HARTクリニック
- ときわ台レディースクリニック
- 虹クリニック
- はなおかIVFクリニック品川
- はらメディカルクリニック
- ファティリティクリニック東京
- 松本レディースクリニック
- 両角レディースクリニック
- リプロダクションクリニック東京
- 六本木レディースクリニック
※5/18追記:見落としていた3院を追加しました。
公開情報の内容や表現方法は様々
もちろん公表しているといっても詳細データを全公開しているわけではなく、あくまで
- 妊娠率
- 妊娠数
を、
- 年齢別
- 年代別
- 誘発方法別(自然〜刺激)
- 受精方法別(人工授精〜体外受精)
- 胚グレード別
- 年・年度別 などなど…
といった角度やメッシュから自由に算出していて、基礎となる生データのフォーマット自体は同じなんでしょうが、公表にあたってはその表現方法は様々というのが現状です。
当初、公表しているクリニックの成績を同条件下で公平に比較しようと全てエクセルに落とし込もうと試みたものの、公表データの表現が多様すぎて前提条件を揃えることができず断念しました。無念…
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妊娠の定義を「胎嚢確認」と明示しているクリニック
以前にある医師から
「学会へ報告するデータは胎嚢確認を妊娠としている」
と聞いていたので、同条件下での公平な比較が難しいのならせめて、妊娠の定義を「胎嚢確認(臨床妊娠)」と明確に記載しているクリニックが30院の中でどれくらいあるのかを調べてみました(公式サイトとは別に医師のブログに記載されている場合も含んでいます)。
結果は、
- 浅田レディースクリニック
- ウィメンズ・クリニック大泉学園
- 貝原レディースクリニック
- 木場公園クリニック
- 桜の芽クリニック
- 東京HARTクリニック
- ときわ台レディースクリニック
- ファティリティクリニック東京
- はらメディカルクリニック
- 両角レディースクリニック
- リプロダクションクリニック東京
- 六本木レディースクリニック
の計12院と、公表している30院の4割でした。
なお、木場公園クリニックは「胎嚢確認」との記載はありませんが、胎嚢確認よりも先の「胎児の心拍が確認できた率」の記載があったので含んでいます。
年齢ごとの妊娠率を比較
先ほどクリニックを公平に比較するのは断念したと言いましたが、とは言えせっかく調べたので、記載のある年齢/年代別の妊娠率または妊娠数を
- 妊 娠:心拍/胎嚢確認 > 陽性判定
- 種 類:体外 > 顕微 > 人工授精 >
- 誘 発;刺激 > 自然
- 段 階:凍結胚 > 新鮮胚
- 分 割:胚盤胞 > 分割胚 >
- 質評価:合計 > 最良 > 良好 >
- 個 数:1個 > 2個
- 期 間:最新(含む) >>>
- 妊娠率:移植 > 採卵 > 患者 あたり
と、各CLのウェブサイトに上記左側からの項目記載がある条件での妊娠率または妊娠数を年齢や年代ごとに並べてみました(例えば、移植あたりの妊娠率の記載はないけれど、患者あたりの妊娠率の表記がある場合はそちらを並べています。つまり上記の各項左から最初にヒットした条件における妊娠率をピックアップし並べたものです)
以下表のクリニック表記は、W=ウィメンズ、L=レディース、CL=クリニックとの略称で表記しています。
年齢帯のくくりが様々ですね。
見やすいように似たメッシュで表記しているクリニックを近づけて並び替えてみましょう。
※5/24追記
コメントでご指摘をいただいたので、リプロダクションクリニック東京について、大阪も含めた合算成績を以下に追記いたします。
RCT 東京+大阪 | 〜34歳 | 35〜39歳 | 40歳〜 |
---|---|---|---|
成績 | 48.3% | 41.6% | 37.8% |
※6/1追記
桜の芽クリニックのデータを誤って記載していたので修正しました。また胎嚢確認文言も見逃していたので前項にも追加致しました。
年齢帯ごとに分割している数でみると(ちょっと表現が稚拙ですが)、
- 分割無 → 11院(37%)
- 2分割 → 1院(3%)
- 3分割 → 6院(20%)
- 4分割 → 5院(17%)
- 5分割 → 6院(20%)
- 6分割 → 1院(3%)
年齢帯で区別なくクリニック全体の妊娠率として表記している分割無しに半分近い12院があり、その内5院は「率」ではなく「数」のみの表記にとどまっています。
個人的には最低限、〜30代前半・後半・40代以上という年齢帯で分かれている、3分割以上のクリニックが親切だなと感じますね。
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個人的にデータ公表に特に積極的だと思ったクリニックを挙げてみる
今回調べてみて感じたのは、公表している中でも
- 形式上とりあえず最低限、情報を開示している感
- 綺麗な数字に見える算出方法を用いている感
- 根拠となる細かい情報を積極的に出している感
と濃淡あります。
さすがに全ウェブサイトを見まくっているとなんとなくわかってきますね。
ということで、ここからは個人的にかなり濃いデータを特に積極的に公表しているなぁと思ったクリニックを3つ以下に挙げてみたいと思います。
細かい情報を出して根拠を示そうとしている姿勢は、より好感が持てますね。
東京HARTクリニック
青山にあるクリニックです。
体外、顕微、凍結胚移植、年齢帯別などの詳細はもちろん、
- 平均採卵数
- 平均移植数
- 最高採卵回数
- 最高移植回数
- 平均採卵個数
- 受精率
- 分割率
- 胚盤胞到達率
- 融解胚生存率
についての詳しいラボデータを公開しています。
採卵数や個数、移植回数は気になるデータなので非常に参考になりますね。
なお、同院の小柳医師(@yurikoyanagi)はツイッターの質問箱で忙しい合間を縫って当事者からの質問に真摯に答える活動をされていて、日々有益な情報を発信されています。ぜひフォローしてみてはいかがでしょうか。お勧めします。
リプロダクションクリニック東京
大阪から進出してきた汐留にあるクリニックです。同院の松林先生のブログは非常に有名で、自分も何か疑問に思った時は松林先生のブログで情報を検索したりします。
こちらも年齢帯別での細かいデータ公表もありますが、特にスペースを割いているのが、TESE(精巣内精子回収術)についての回収率や妊娠率を公表している点。
男性不妊への対応にも力を入れていることが伺えます。
はらメディカルクリニック
代々木〜千駄ヶ谷にあるクリニックです。
個人的にはこちらのクリニックが一番データ量が多い印象です(エクセルでまとめる時ほんとにしんどかった…)
上記2院を足して、さらに刺激周期の薬ごとの実績や、移植胚の個数(1個・2個戻し)ごとの実績、グレード別の実績などなど。かなりボリューミーですので、読み応えがありますよ。
まとめ
今回調べてみて思ったのは、もっと公表しているイメージでしたけど意外に少ないなぁと。
特に永遠幸グループ(KLC、SLC、新橋夢、NAC)を始め、自然周期メインのクリニックはあまり出してない印象を受けました。あくまで印象です。
とはいえ公表している中でも、
「えっ、その算出方法だと妊娠率高めにでちゃうよね…」
とか、対象となる母数や割り方が大甘なところも極めて少ないですがありました(ちょっと良い風に捉え過ぎだろ..的な)。
と言いつつ、公表データはあくまでクリニックが自発的に行なっているものなので、公表されているにこしたことはないですけど、かといってその信ぴょう性を確認する術がないのもまた事実。正しいデータが適切に公開されていると信じるしかないのでしょうが(疑り深い 笑)
ということで、都内クリニックの実績公表状況を調べてみました。もっと公的に全データを公開する仕組みができれば良いなと思います。
夫
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すみません。リプロと浅田を見比べてるんですが、リプロは東京のみ、浅田は名古屋勝川品川の三院合算の数字です。これだと比較としてモヤっとします 複数拠点の場合は数値合算した方が正確なのかなと思います(母数が増えるので、統計的な正確さが増すかなって…)
ご指摘ありがとうございます。リプロは東京と大阪の数字を合算の上算出し結果を追記しました(各院Webサイトに掲載の2017年凍結融解胚移植周期数→臨床妊娠数をそれぞれ合算して計算し、グループ全体としての臨床妊娠率を出しました)。ご参考にされてください。
桜の芽クリニックについて確認させてください。
HPにでているデータとかなり表記が異なるのですが、何を元にされていますでしょうか?
HPでは、胎嚢確認の記載があり、また年齢別のデータもあります。年齢別では刺激周期率、新鮮胚移植率、平均採卵数平均移植回数などかなり細かく、分かりやすく、書かれていると感じ、誠実な印象を持っておりましたが、このブログを読み不安を感じました。ご教示頂ければ幸いです。
大変失礼いたしました。こちらの誤りです。ご指摘の点を確認の上、修正しました。
なぜか執筆時に同院ウェブサイト「診療実績」上部にある体外受精の妊娠率(60人÷112人)を算出して記載していたようです(調査用のエクセルを見返すと胎嚢確認と年齢帯別の妊娠率を記載していたので、完全なる転記時のミスです)。
無用なご心配をお掛けし申し訳ございませんでした。