親友から卵子凍結の相談を受けて感じたこと。手段の目的化を少しだけ危惧している

女友達
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親友が最近「卵子凍結」を検討しており、このところ相談にのっている。

卵子凍結とはその名の通り、女性の身体から「卵子」を取り出し凍結しておくこと。

体外受精では精子と受精した胚(受精卵)を凍結させることが多いが、こちらはあくまで卵子単体(未受精卵)を凍結するもの。加齢によって質の良い卵子が減ることを念頭にその数が多い若い時に凍結し確保しておこうというものだ。

今日はそんな卵子凍結について考えてみたい。

 

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卵子凍結とは

繰り返しになるが、卵子凍結とは女性の卵子を採取し未受精卵のまま(-196℃で)凍結しておく技術のことである。

直近で妊娠を目指す予定や具体的な計画、また今はそういった状況にないけれどもいずれ妊娠を目指すことを考えている女性の利用を想定している。

近年、専門業者も出てくるなど、じょじょに日本でも認知度を上げてきている一つの選択肢だ。

凍結した卵子は、当人が希望する時に融解を行い体外受精によって精子と受精させ、培養を経たのち妊娠に向け子宮に戻す。

この卵子凍結技術はもともと将来的に生殖機能が損なわれてしまう可能性のあるがん患者の「医学的適応」のためにあったものだが、2013年、日本生殖医学会は健康な未婚女性にも将来の妊娠に備えて卵子を凍結保存しておくことを認めるガイドラインを正式に決定した。

 

健康な未婚女性にも将来の妊娠に備えてというのはつまり、

健康な女性がキャリアやパートナーとの事情といった様々な理由によって妊娠を目指す時期が遅れ、結果として加齢による妊孕性(妊娠する力)の低下に備えることだと言える。

がん患者の卵子凍結が医学的な必要性から行うのに対して、こちらは現代の社会構造に即するという観点から「社会的適応」と呼ぶそうだ。

 

生殖医学会・日産婦の考え

とはいえ、ガイドラインを決定した生殖医学会にしても、日本産科婦人科学会にしても健康な女性の卵子凍結を積極的には推奨していない

卵子凍結について日本生殖医学会は、

妊娠・分娩をするかしないか、その時期を何時にするかはあくまでも当事者の選択に委ねられる事項であり、本ガイドラインは未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存の実施を推奨するものではない。また、母児の合併症やさまざまなリスクを考慮すると、妊娠・分娩には適切な年齢が存在するのであり、本ガイドラインは、未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存とそれによる妊娠・分娩時期の先送りを推奨するものでもない。

採取時の年齢は、40歳以上は推奨できない。使用時の年齢は、45歳以上は推奨できない。

生殖医学会ガイドラインより引用

としているし、

また日本産科婦人科学会は、

妊娠や出産は適切な年齢で行われることが望ましく、健康な女性が卵子凍結することは「基本的に推奨しない」。

NHK NEWS WEBより引用

と同じく推奨はしていない。

どちらの学会も一つの選択肢として卵子凍結があってもいいが、積極的に推奨するものではないとのスタンスだ。

そしてこのガイドラインに従い卵子凍結を取り扱う多くの医療機関が、

 

  • 採卵は40歳まで
  • 移植は45歳まで

 

と年齢制限を設けているように見受けられる。

 

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卵子凍結を考える親友

卵子凍結

卵子凍結を考えている親友↑は、私と同じく1983年生まれ、現在35歳。

彼女はインバウンド事業を展開する実業家であり、雑誌やテレビでも取り上げられるその事業はすこぶる好調で、経済的・時間的制約に縛られない自由なライフスタイルを確立している女性である。

そんな順風満帆の彼女は現在婚活中。いずれは結婚して子供が欲しいと考えている。

しかしだからと言ってパートナー探しに焦っているわけではないし、躍起になっているわけでもない。

しかし最近、私が不妊治療をしていたという話や、事業で出会う海外のお客様から「卵子凍結の話」を聞いたことで卵子凍結に対してこれまで以上に身近に、そして真剣に考えるようになったそうだ。

 

常にポジティブ思考の彼女だが、

 

  • 卵子の数は増えない
  • 加齢と共に妊娠率は下がる

 

といった事実を知って改めて自身のライフ設計を考えた時、

 

子供が欲しいと思った時に万が一手遅れになってしまわないか

 

と危機感を抱いたそう。

そして以前から頭の片隅にあった「卵子凍結」が自分ごととして一つの有力な選択肢に浮上してきたのだという。

思い立ったら即行動の彼女はすぐに卵子凍結について調べ始めたところ、卵子凍結における

 

  • 妊娠率や生産率
  • 費用の考え方
  • リスク

 

の点について、不妊治療を経験した私に意見を求めてきたのである。

 

卵子凍結の妊娠〜生産率は?

若いうちに凍結した卵子の妊娠〜生産率はどのくらいなのだろう?

言わずもがな、この点が卵子凍結を考えている方にとって一番肝心で、一番気になるところだろう。

彼女の相談もあって私も早速調べてみたところまず分かったことは(あくまで個人的な感想ではあるが)国内における凍結卵子の妊娠〜生産率はまだまだ十分に統計が出ていないのではないか、ということ。

そもそも健康な女性が凍結卵子を用いて初めて出産に至ったのが、「公式には」2年半前の2016年2月だと言われている。

またNHKの調査によると、2016年10月時点で凍結卵子を用いて出産に至った事例は全国で12人とされている。

 

その後のデータも探したが、このNHKの調査以外にはデータを見つけることができなかった。

NHKの調査結果を元に推しはかれば、おそらく現時点でも出産に至った方は数十人の域を出ないのではないだろうか?

最近、卵子凍結に詳しい方のお話を聞く機会があったのだが、その方も「卵子凍結専門施設での出産について言えばまだ2名ほどなんです」とおっしゃっていたのでその推測に大きな乖離はないと思われる。

 

私は高度不妊治療で胚(受精卵)の凍結を行なった経験から卵子凍結に対して違和感はないけれど、一般的には「卵子を凍らせて大丈夫なのだろうか?」と不安に思う方も少なからずいるのではないだろうか。

凍らせること、そしてそれを解凍(融解)する過程に卵子は耐えられるのだろうかと。

その不安、特に解凍についてはリプロダクションクリニック東京の松林医師のブログによると、以前は融解後の生存率は50%だったものの、現在は90%くらいまで上がってきているという。

胚凍結の方が卵子凍結よりも良好ですが、卵子凍結によるダメージはかつてと比べ格段に改善しています。数年前までは卵子凍結を融解した際の生存率は50%でしたが、現在90%になっています。10個に1個のロスですから、ほとんど問題ないレベルです。なお、胚凍結の生存率は99%です。

松林秀彦(生殖医療専門医)のブログより引用

ただ、50%から90%に大幅に生存率が飛躍したとは言え、胚(受精卵)の融解後生存率99%と比べると、未だ10%ほど開きがあるのも事実。

またこの凍結卵子の融解後の生存率は30~70%程度だとする医療機関もあり、このデータはクリニックによってもまちまちだと言えそうだ(色々と調べると多くのクリニックが30〜70%前後としている為、90%という数値は平均的なものではなくアップサイドな数値だと思われる)

ちなみになぜ胚(受精卵)よりも卵子(未受精卵)の方が融解後の生存率が低いかというと、細胞が弱く不安定だからだそうだ。

未受精卵 受精卵

(↑イメージ。細胞が細かい受精卵の方が壊れにくい)

また精子が卵子に侵入した際、2匹目を入れないようにするための重要な役割を果たす「表層顆粒」という小器官が卵子にあるのだが、この表層顆粒は凍結〜融解の過程で壊れてしまうらしい。

よって、凍結卵子融解後の体外受精は「ふりかけ式」ではなく必ず針で直接精子を注入する「顕微授精」で行われる。

(引用: こそだてハック

 

 

体外受精における妊娠率について

ちなみに

採卵 + 採精

体外受精(ふりかけ式/顕微授精)

培養

新鮮胚移植/凍結胚移植

という一般的な体外受精の妊娠率は、日本産科婦人科学会の2014年調べによると、

 

  • 30歳で約21%
  • 35歳で約19%
  • 40歳で約9%

 

ほどとなっている。

99%の生存率を誇る凍結胚(受精卵)を使用してもこの確率なので、融解後の生存率が10%以上低い凍結卵子であればさらに低くなる可能性があるのではないだろうか。

 

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卵子凍結の費用は?

卵子凍結〜保管までの費用を調べると、おおよそ50万円〜100万円といったレンジで、さらにこれに加えて毎年凍結延長料(更新料)数万円がかかってくる。

現在卵子凍結に対して助成金等はなく、全額自費診療。

またこの凍結卵子を使用する際には更に、

 

  • 凍結卵子の融解料
  • 顕微授精〜移植料

 

が必要となる。

「なるべく若いうちに採卵する」ことが理にかなう一方、若いがゆえに多くの人が簡単に手を出せる金額ではないことも明らかだ。

 

卵子凍結を行う医療機関での説明会に際し確認したいこと

卵子凍結を行う施設には、主に以下点について確認した方が良いと思う、と彼女に伝えた。

 

凍結の先にある妊娠率や生産率

→移植による妊娠率や生産率の現実をどう語るか(その現実に言及しない、もしくは「凍結すれば安心」的なトーンで語る場合は気に留めておいた方がよい)

 

刺激法による副作用の懸念やリスクを丁寧に説明してくれること

→卵巣刺激によるOHSS(卵巣過剰刺激症候群)や採卵手術時の麻酔の副作用等。

 

高年出産についての説明

→高年出産時の流産率やリスクについて。

 

絶対に潰れないことと、その対策について

→有事リスクへの対策をどう講じているか。

 

個人情報・保管管理体制について

→卵子の取り違え、紛失事故等のリスクを避ける為に講じている具体的対策について。

 

卵子の質がよくても男性不妊の可能性もあること

→不妊の原因の半分は男性側にもあるという事実を説明するか。

 

凍結卵子の採卵や移植をどこでするか

→採卵〜移植が可能な不妊治療クリニックであれば自院で完結できるのであまり関係ないが、凍結専門業者の場合は採卵と移植がどこのクリニックでできるのかも一応聞いた方がよい。

 

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東京23区内で卵子凍結が可能なクリニック

現在、東京23区内では以下のクリニックで未婚女性の卵子凍結が可能なようだ(coel調べ)

 

  1. 杉山産婦人科(新宿・丸の内)
  2. 京野アートクリニック高輪
  3. 赤坂レディースクリニック
  4. オーク銀座レディースクリニック
  5. 六本木レディースクリニック
  6. リプロダクションクリニック東京
  7. プリンセスバンク(クリニックと提携)

 

私の友人は、現在杉山産婦人科もしくはリプロダクションクリニック東京での卵子凍結を検討しているらしく、近く説明会に足を運ぶ予定だ。

 

卵子凍結の未来や現実についてどう考える?

卵子凍結・・とても合理的な選択肢だと思う。

現代社会において、女性のライフステージ設計は本当に難しいと感じる。

日本では凍結卵子の妊娠〜生産率についてのデータが少ないこともあり、また自分が経験者でもないことから安易に友人に勧められる立場にないが、選択肢が増えること自体は良いことだと思っている。

と同時に、

 

「凍結しておけば大丈夫!」

 

と凍結が「ゴール」かのように語られ、凍結の良い面だけをもとに誤解を生むような風潮にならないか個人的には危惧するのも正直な気持ちである。

特に凍結専門業者の場合、凍結〜保管がキャッシュポイントとなるため、融解後の生存率や妊娠・生産率の実情に言及せず、凍結をゴールかのように誘導するようなことがないことを切に願いたい。

凍結卵子がたとえ100個あったとしても妊娠に至らないこともあるだろうし、逆に数個でも妊娠する場合もあると思う。

「良い面」と「その先の実情」をセットで明確に伝えることが前提として必要だと思うし、そもそも何事にも表裏があり「絶対」はありえない。

 

体外受精、顕微授精、卵子凍結、卵子提供、精子提供、代理母、子宮移植・・

 

いろいろと賛否はあるけれども、どんな選択を希望するかなんて結局のところ当事者になってみないとわからない。これは私が不妊治療を経験したからこそ実感していることだ。

個人的には、多くの選択肢があることに反対ではないがその一方で大事なことは、そこに正確なデータや実情もセットで提示され、可能な限り納得感を持って患者側が判断できる環境を整えておくことが必要なんだと思う。

 

卵子凍結はあくまで「手段」であって「目的」ではない。

 

おそらく卵子凍結の対象として想定される「未婚女性」の多くは、不妊治療を含む生殖医療分野に明るいわけではないと思う。

だからこそ凍結を求める方には、それがあくまで妊娠を目指す一つの「手段」であることと、妊娠〜出産までの様々なハードルをデータを交えて説明し理解を求める手順をしっかりと踏むべきだと、親友と話していて強く感じた。

親友が近く卵子凍結の説明会に参加するので、追ってその内容や彼女の感想を聞いてみたいと思う。

朝日

【前編】卵子凍結を行う都内全クリニックの比較と経緯まとめ。友人がオーク銀座を選んだ理由

2019年5月6日
Lake

【中編】オーク銀座での卵子凍結初診から採卵。誘発方法ごとの概算費用を前納し採卵周期スタート!

2019年5月8日
草原

【後編】卵子凍結を終えた友人の率直な感想。未来は分からないけど 後悔だけはしたくない

2019年5月9日

参考サイト

日本生殖医学会「ガイドライン
NHK「“老化”を止めたい女性たち~広がる卵子凍結の衝撃~
HUFFPOST「卵子凍結を考えている方に知っておいてもらいたいこと 前半①~社会適応の卵子凍結に対する考え方~
NIKKEI STYLE 「凍結した卵子で将来妊娠できる確率は低い
健康な女性の「卵子凍結」、専門医が積極的でない理由
プリンセスバンク「卵子凍結保存について
wikipedia「卵子凍結保存
杉山産婦人科「当院で行う未受精卵の凍結保存について
WEZZY「卵子凍結」は、将来の出産のための“保険”となりうるか?

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1983年生まれ。約4年の妊活〜不妊治療を経て顕微授精による移植で2018年に出産しました。経験から不妊治療を取り巻く環境の課題軽減、当事者支援に取り組んでいます。
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2 件のコメント

  • 確かに卵子凍結するための採卵にもリスクがあるし、他人に積極的にすすめるものでもないと思う。
    実際私も採卵時のOHSSで入院手前までいきました。
    私の場合は体外受精ですが。
    卵子提供、卵子凍結反対な訳ではないですが、年齢が要因でそれらを選択した場合、妊娠した後の事を考えたらオススメできないのが本音です。
    妊娠はゴールでもなんでもないし、出産は命懸け、それから子育ては体力勝負です。
    私も30代半ばの高齢出産でした。
    いい年齢なのである程度家計には余裕があったので、大変さをお金で解決した部分もありますがそれでもキツい。
    乳児期はまだ可愛いばかりで全然余裕があったんですけどね。幼児期から徐々に・・・
    出産時の体のダメージはもとより、更年期子育てや介護、予めそれは承知でとは言いますがやはり適齢期というのはあると思います。
    少なくとも卵子凍結や卵子提供の選択肢を保険にするような事だけは現代を持ってしても適切ではないと感じます。
    それらを周知にすることもまた、違うと思います。

    • 花さん

      コメントありがとうございます。体外受精、出産、育児まで経験されている花さんのご意見、とても参考になりました。

      確かに「妊娠を何歳でするか」「何歳で産むか」にフォーカスされることが多く、出産後の育児についてはあまり触れられていないように花さんのコメントを読んで改めて感じました。
      生きているうちの多くのゴール(と思ってしまう事象)はスタートの裏返しでもありますよね。細分化して区切って考えることも時に大事ですけど、と同時にその前提には連綿とつながる一つの流れ(人生)があることを忘れないようにしたいものです。
      また、採卵に際しての懸念事項も私も同感です。もし採卵で何かあったらそれこそ元も子もないですもんね。ノーリスクではないことの説明があることを願います。

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